| オヤツと部屋と牛鬼様と 「どうしよう」 馬頭が泣きそうな声で訊ねる。 「牛鬼様、許してくれるかなぁ」 馬頭丸は溜息を吐き、空っぽになったお皿を見て、言った。 「牛鬼様……楽しみにしていたと思うよ……それ」 二人は顔を見合わせ、大きなため息をついた。 数分前の話。 屋敷内。牛鬼の部屋の障子を開ける。左右見回して、閉めた。 「牛鬼様、まだ帰っていないみたいだ」 牛頭が告げると馬頭は残念そうな表情を浮かべる。 「牛鬼様、早く帰ってこないかな」 クルリと馬頭の方を向き、「今から何する」 馬頭に訊ねる。 「探検」 馬頭は短く答え、指す、……牛鬼様の部屋を。 「う〜ん……勝手に入ったら怒るよ牛鬼様」 「う〜でも暇だし」 「でもなぁ」 「部屋、見たい見たい! 何か楽しそうなものあるかもしれないよ、調べたい調べたい!」 正直に言うとオレも見たい。 牛鬼様の部屋、あんまり入ったことがない、じっくりと隅から隅まで見たこともない。 昔、調べようとしたらゲンコツを喰らった。 きっと、否……! 何か見られたくないものが、絶対、絶対にあそこにある! それを何か、知りたい! ……が。 「絶対、バレたら怒られ……」 言っている途中で、馬頭丸は障子に手をかけ、そして。 「おーぷん・ざ・しょーじっ!!!」 スターァン! 馬頭が乱暴に障子を開ける。 くるりと牛頭丸の方を向き、「バレないようにすればいいよ〜」と笑う。 完全お気楽主義者・馬頭丸。 「まあ……そうだけどもなぁ」 とか何とか言いながらも、牛頭丸、馬頭丸は牛鬼の部屋にスッと入った。 ……………………………………ガサガサガサ。開ける、触る、奥に手を伸ばす、繰り返す繰り返す。 「なーんにもない〜っ! 秘密の部屋とかそんなのない! ないよ〜」 そりゃそんなのねぇだろ。 でも、馬頭の言うとおり、さっきからこんなに調べているのに……。 あちらこちら開けてみる。しかし……。 「ない……なぁ」 本当に何にも。 周りを見渡す。 あるのは大量の巻物と本と仏像に……あれ。 馬頭は手に何か持っていてそれをダラダラと涎を流しながら眺めている。 「馬頭、何してんだ」 馬頭はズビシッ! と手に持っているものを突き出す。 「あっケーキ?」 ノンノンノンと人差し指を振る。 「確かこれ、モンブランとか言うケーキの一種! これ、限定品だったんだって! 昨日、オヤツの時に牛鬼様、説明してくれたよ〜」 どっちみちケーキじゃんそれ、そう言おうとして口を開けた、瞬間。 「ガゴァ!」 「はい、おすそ分け〜」 半分食べて、馬頭丸はもう半分を牛頭丸の口に詰め込んだ。 馬頭丸にとってはそれは嫌がらせをしたのではなく、いいことをしたと思っている。 善意のつもりが悪意。 ゴホゴホッとむせて、涙がボロボロの牛頭丸に対して、分けてやったんだぞ、と大きな顔する馬頭丸。 そんな馬頭丸に足蹴を喰らわす。 「何で?! ひどいよ!」 「酷いもくそもあるもんか! 馬頭!」 涙目の馬頭丸を正座させて聞かす。 「オメェーは今、そのケーキは何処で見つけた?」 「牛鬼様の部屋〜あっあそこ」と指す馬頭丸。 「何で、ケーキが此処にあったと思う?」 「牛鬼様も食べたかったのかなぁ? ……あ」 馬頭丸の顔色が見る見る間に真っ青になっていく。 「やっちゃった」 「どーすんだ」 「いやその……どーしよ」 そして、今。 ズドーンと暗い雰囲気が部屋を包み込んでいる。 「もうちょっと早く気づいて言ってよ……牛頭」 「普通、すると思わなかった」 ハァとため息。 楽しみにしていたものを食べられたと知った時の牛鬼様の落ち込んだ顔が瞼の裏に浮かぶ。 「……どうしよう」 う〜んと頭を抱え、牛頭丸は唸る。 馬頭丸も必死に何かいいアイデアを思いつこうと頑張る。 う〜ん、と二人の唸り声。 うんうんと唸って、突然、ポンッと馬頭が手を叩く。 「何か思いついたのか!?」 にぱ〜と笑い、指を突き出して。 「選択ーいちっ! いっそケーキ作る」 …………。「材料ない」 むむっと馬頭。 「ならば選択にぃー! 買いに行く!」 「限定……だろ? 人気っぽかったし、今行っても、もう売ってないじゃねぇーの?」 がががぁあああんと落ち込む馬頭。 ならばならば、と最後。 「選択さんっ! いっそ神頼みぃいいい!!!」 「無理だろ、それ!」 無理に、思いつこうと頑張った所為で、脳がやられ、馬頭丸は「うぎょぉおおお」と奇声を発する。 「お前は頑張った! 現実に戻っておいで! オレが、オレが考えるから! もうオメェはいいから!」 バタバタバタ。ギャーギャー。 馬頭を元に戻そうとベチベチ頬を引っ叩いてみたりと、頑張っている最中。 「牛頭馬頭」 少し、怒りを含んだ低い、低い声。 帰って来られましたか……もっと遅くに帰って欲しかったです。 「牛鬼様」 二人の声が重なる。 「何をしているんだ、二人揃って……私の部屋で」 眉間にしわを寄せて、ごちゃごちゃになった部屋を見回し、言う。 「そこに座りなさい」 二人はサッと正座する。 「私の部屋に勝手に入っては駄目だと…何度も言っただろう? ……牛頭馬頭」 ジッと牛頭丸と馬頭丸の顔を見る。 その時、牛鬼は気づく。 「馬頭……その皿……もしかして……食べた…のか」 あああ、馬頭! 馬鹿! 隠しておけよ! こんな怒っている時に……それがバレたら……説教に+で…正座二時間、三時間もさせられてかもしれない。……ヒィ恐ろしい。 「どうなんだ?」 ぬっと馬頭丸に迫る。 「いや……その…あの…ご」 ごめんなさい、馬頭丸がそう言おうとした時だった。 「食べてないのか、それならいいのだが……」 ほっ、と安心する牛鬼。それに、えっと驚き、目を見開ける牛頭丸と馬頭丸。「……あれだけ、解毒剤入りらしい…後で捨てようかと思っていたんだ……」 ブッと吹き出す。食べちゃったよオレら、食べちゃったよ! 二人は顔を見合わせる。あははは、顔、真っ青だあはははははははははははははは。 ぎゅるるるるるるるるるるるるるる。嫌な音が部屋中に響く。アハハ何だか…腹が痛い。 「……食べたんだな」 こくりこくりと頷く。 「……かわら、行きなさい」 もしかしたら、今日は説教と正座のお仕置きはなくなるかもと、苦しみながらもちょっと喜んでいた時。 「マシになったら……すぐここに来なさい、五時間説教だ…正座でな」 えええ…そんなぁ。 「私の部屋を荒らした理由、聞かせてもらうぞ……」 「正座で、ですか」 「五時間ですか」 こくりと頷く。 ………。「えええ! そんなぁ!!!」 その後、五時間を一時間に、牛鬼の肩もみをするという条件で減らしてもらったりしましたが、当分の間はおやつ禁止に部屋に出入り禁止になりましたと。 |